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ジュニアのためのバレエ考察「価値あるレッスン」

  • 2025.10.04

先日は幼児におけるバレエの考察をいたしましたが、今日はジュニアの皆さんを対象に考察してみたいと思います。

幼稚園児(3〜6歳)と違い、小中学生(7〜16歳)や高校生(16歳〜)は身体・心・学習能力の発達が大きく進み、バレエの取り組み方も変わってきます。

この時期のジュニアにとって、正しいバレエを身につけるということがとても大事であり、メソッドの役割・重要性はさらに広がります。

1. 成長期の身体を守る安全な進度管理

  • 小学生は骨格・筋肉が発達段階にあり、特に12歳前後の成長期は怪我のリスクが高くなります。

  • メソッド(シラバス)は 「正しい姿勢・基礎技術」→「テクニック」→「表現」 と段階を踏ませることで、無理のない成長を保証します。

  • 身体的な負担を見極め、年齢に応じてトレーニング量や難易度を調整できるのもメソッドの強みです。

2. 将来を見据えた体系的な技術習得

  • 7〜16歳は、基礎を固めつつ本格的にテクニックを習得する「黄金期」。

  • メソッドに基づいて学ぶと、ピルエットやジャンプ、アダージオなど高度な動きへのステップアップが明確 になり、効率的に上達できます。

  • バレエ団や海外留学を目指す場合も、世界標準のメソッドを学んでいることは大きなアドバンテージになります。

3. 思春期特有の心の課題への対応

  • 小中学生は「自信と不安」「仲間との比較」「反抗心と自己主張」が強くなる時期でもあります。

  • メソッドがあることで、「目に見える到達点」 を示せるため、本人も「どこまでできたか」「次に目指すこと」が理解しやすく、モチベーション維持につながります。

  • 指導者メソッド(シラバス)を理解していると、感情的ではなく体系的に教えることで、生徒は「先生の言うことは根拠がある」と感じ、信頼関係も築きやすくなります。

4. 教育的・社会的な成長サポート

  • メソッドには、礼儀・規律・集中力 を学ばせる教育的な側面も含まれます。

  • 小中学生は「受験・部活・友人関係」との両立に悩む年齢ですが、バレエの規則性と習慣が生活リズムを整える支えにもなります。

  • グループでのレッスンを通して、協調性やリーダーシップも自然に養われます。

  • バレエはエクササイズをその場で覚えながら、音楽に合わせ正しく動くという高度な作業が伴いますので頭と心の成長を促します。

5. 保護者への信頼と将来の見通し

  • 保護者にとっては「この年齢で何を学ぶのが適切か」が気になるところ。

  • メソッドがあると、「小学中学年で基礎を徹底」「中学でテクニック強化」「高校で芸術性と舞台経験」など、成長ロードマップを明確に説明できます。

  • 将来プロを目指すのか、趣味として続けるのか、進路に合わせて調整できる柔軟性も、メソッドに裏打ちされていることが重要です。

バレエ教育で世界的に使われているメソッドはいくつかありますが、大きく分けるとロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス(RAD)メソッド 、 ワガノワ・メソッド、パリ・オペラ座メソッド があります。

どれも優れた体系ですが、歴史的背景や目的、教育方針に大きな違いがあります。

このほかにも歴史あるチェケッティ・メソッドバランシンスタイルなどがあります。

ここでは代表的な3つのスタイルを比較してみます。

1. 背景と成立の目的

RADメソッド(Royal Academy of Dance)

  • 発祥:1920年、イギリス・ロンドンで設立。

  • 目的:当時の英国にバレエ教育の標準がなく、教師ごとに指導がバラバラだったため、「バレエ教育の世界共通の基準」を作る ことを目的に設立。

  • 特徴:資格制度(教師資格・試験制度)を整備し、教育の質を保証することに重点。

ワガノワ・メソッド(Vaganova method)

  • 発祥:ロシア帝国末期〜ソ連初期、サンクトペテルブルクのワガノワ・バレエ学校でアンナ・ワガノワが確立(1930年代)。

  • 目的:ロシア帝国バレエの伝統にフランス式・イタリア式を融合し、舞台で世界的に活躍できるプロフェッショナルダンサーを育てる ために体系化。

    9歳以上で審査をパスした子が対象。

  • 特徴:ロシア国立劇場のダンサー養成機関のため、芸術性と舞台表現力を最重視。

パリ・オペラ座メソッド(École de danse de l’Opéra de Paris)

  • 起源:1661年、ルイ14世が創設した「王立舞踊アカデミー(Académie Royale de Danse)」が基盤。

  • その後、パリ・オペラ座附属学校(École de danse de l’Opéra national de Paris)として体系化。

  • 世界最古のバレエ学校であり、クラシック・バレエの「源流」とも言える。

  • 目的:パリ・オペラ座バレエ団で活躍できるダンサーを養成すること。

  • 特徴:極めて厳格な選抜と訓練。身体条件(足の甲、脚の長さ、股関節の開きなど)が最初から重視され、芸術性・洗練された美しさを徹底的に追求。

  • 伝統の美意識:「フランス流のエレガンス」「軽やかさ」「透明感ある動き」が核。無駄のない正確なポジション、アームスの美しさ、上体の気品を重視。

2. 教育内容・方法の違い

RAD

  • 段階的で安全重視
    3歳の幼児から大人まで対象。グレード(Grade 1〜8)とヴォケーショナル(上級レベル)に分かれ、発達段階に合わせた無理のない進度

  • 試験制度
    世界中で同じ基準の試験を受けられ、結果は国際的に通用。趣味の子からプロを目指す子まで、明確なモチベーションになる。

  • 教育的・全人教育的
    音楽性・表現力・姿勢・礼儀なども評価。プロ養成だけでなく、「教育としてのバレエ」に重点。

ワガノワ

  • 徹底した基礎と厳格さ
    体幹・背中・腕のポジションを特に重視。訓練は厳しいが、完成度の高い技術を育てる。

  • プロ養成特化
    入学時点で厳しい選抜(体格・柔軟性・身体比率)を行い、プロになることを前提とした指導。

  • 芸術性・表現力の統合
    技術と同時に音楽性・感情表現を徹底して学び、「観客を魅了できる舞台人」を育てる。

オペラ座

  • 入学制限:オペラ座スクールへは主に8〜13歳で入学試験。身体的条件・音楽性・将来性を厳しく審査。

    フランス国内のコンセルバトワールやパリ以外のオペラ座などでもこのメソッドを踏襲しており、スクールによって入学年齢も変わります。

  • 徹底的な基礎:バーレッスンから細かい精度を求める。つま先の方向、腕の曲線、首の角度まで美意識が統一。

  • 芸術と技術の融合:高度なテクニックよりも「均整の取れた美」を重視。強さよりも繊細さ、重厚さよりもエレガンス。

3. 目的の違い

  • RAD:幅広い層(趣味〜プロ希望)を対象に、世界共通基準で「安全・教育的・段階的に」学ばせること。

  • ワガノワ:選ばれた才能を徹底的に鍛え、世界レベルのバレエ団で活躍できるプロダンサーを生み出すこと。

  • オペラ座:完璧なプロポーション・洗練された美(芸術性とエレガンス重視)。

世界のバレエスクールでスタンダードになっているメソッドはワガノワですが、プロになるとさまざまな振付に対応することを迫られます。

世界のバレエはプティパだけではなく、マクミランやアシュトンといった巨匠の作品もあり端正な踊りを要求されることもスタンダードです。

ほかにも気鋭の振付家やディレクターが振り付けた作品を踊ることもありますし、バランシンの作品を踊る機会も多いです。

なので将来的にはメソッドにとらわれずに、振付家の要求に応えられるだけの適応力やコーディネーション能力が求められるのです。

ジュニアの中でも趣味でやる子と将来に夢がある子では求められるクォリティは大きく変わるということです。

そういった意味でも、先生がメソッド(シラバス)というものを知っていることは生徒にとってとても大切なことなのです。

ここまでメソッド(シラバス)の重要性について概論を書いてみましたが、バレエの上達には心身ともにバレエができる身体を作っていかなければなりません。

よくバレエやっている人は姿勢がいいとか身体が柔らかいとか足がきれいだとか言われますが、バレエ教室に通ったからといってそうなれるわけではありません。

そうなりたければそれなりのことをしなければなりません。

ということで次にバレエをする上でとても重要である身体作りについて少し整理してみます。

バレエは「芸術」であると同時に「高度に専門化されたスポーツ的身体活動」でもあり、身体作りは上達のための大前提です。

<バレエ上達のための身体作り>

1. 基礎体力の強化

バレエは繊細に見えて、非常に大きな筋力と持久力を必要とします。

2. コア(体幹)の安定

バレエの軸は正しい知識と「体幹の安定」から生まれます。

3. 柔軟性と可動域

無理に開脚するのではなく「関節の可動域」を正しく広げることが重要。

4. 正しいアライメント(姿勢)

いくら筋力や柔軟性があっても「正しく使えなければ」上達しません。

5. 専門的な筋力の発達

内転筋、ハムストリングス、外旋六筋、腸腰筋などなど注目すべき筋肉は多数あります。

6. 調整力(コーディネーション)

バレエは「手・足・頭・全身の関節・筋肉・視線・呼吸」を同時に操作する(連動させる)芸術です。

7. 栄養・休養

身体作りはレッスンだけでなく生活全体で支えられます。

まとめてみるとバレエの身体作りは次の「7本柱」で体系化できます。

  1. 基礎体力(持久力・筋持久力)

  2. 体幹の安定(コアコントロール)

  3. 柔軟性・可動域(関節・筋肉)

  4. アライメント(姿勢・重心)

  5. 専門的筋力(脚・背中・腕)

  6. 調整力(リズム・コーディネーション)

  7. 栄養・休養(身体を整える生活習慣)

これらをバランスよく整えることで、「美しく安全に技術を習得できる身体」になります。

具体的に何をどうしたらいいかについては、本3冊分くらいの情報量になってしまうので割愛しますが、これだけは言えます。

バレエ上達とバレエダンサーの身体は、正しいバレエを習うことと、正しい体の使い方が何よりも大切だということです。

間違った体の使いかを放置したら、メソッドが求める技術は身につきませんし、無駄に太ももが太くなったり、扁平足になったりします。

何年もバレエをやっているのにまったく筋肉が育っていない子も数多く見られます。

正しいバレエを教えられる先生、向学心のある先生に習うことが、バレエをする上でその子の価値が上がるものだと思います。

そういった意味で先生は責任重大です。

生徒のジュニアにとっても、保護者の方にとっても価値あるバレエレッスンとは何か、この記事が再考のきっかけになってくれたらと願います。

以上、ジュニアについて総論を書いてみました。

長文にお付き合いいただきありがとうございます。


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